かすかな、試し弾きのような、ハープの呟きが聞えた。
また静まりかえった。
それから再び吹き始めた風に乗って、ゆるやかな演奏が聞えた。
それは古い唄の調べだった。ぼくは歌詞を知っていた。独りで歌詞を呟いた。
唄に合せてかろやかに歩めよ、
やさしい草を傷つけぬよう。
人のくらしには雨あり風あり、
砂時計のなかでは砂あらし。
そう、とぼくは心のなかで言った。つづけてくれ。
涼しい日陰を気楽にさまよい、
日ざしのなかではひなたぼっこ。
飲みものよ、ありがとう、たべものも、
葡萄酒も、かわいい女たちも。
くらしはいずれ終るのだから、
クローバの上をかろやかに歩めよ、
いとしいひとを傷つけぬよう。
こうして、くらしから出て行こう、
さよなら、ありがとうと言いながら。
すべてがすんだらゆっくり眠ろう、
いのちと引き換えの眠りだもの。
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