2011年11月1日火曜日

コーマック・マッカーシー “すべての美しい馬”

 ロリンズはさらに馬を前に進め、酒を飲みながら独言をいった。馬がどこまでいくか教えてやろうか、と後ろに向かって叫んだ。
ジョンン・グレイディもあとに続いた。馬の足もとから行く手の道に砂埃が渦巻いた。
まっすぐこの国から飛び出していくんだ、とロリンズが叫んだ。そうさ。そして今度の金曜日に地獄へいく。あの馬がいく先はそこだ。


(…)

 最後に老人は自分は馬の魂を見たことがあるがそれは見るからに恐ろしいものだといった。それは一頭の馬の死に立ち会ったときにある種の条件がそろうと見えるがそれというのも馬という生き物は全体でひとつの魂を共有しており一頭一頭の生命はすべての馬たちをもとにしていずれ死すべきものとして作られるからだ。だから仮に一頭馬の魂を理解したならありとあらゆる馬を理解したことになると老人はいう。
一同はじっと坐って煙草を吸いながら赤い炭がひび割れ壊れてゆく焚き火の中心部を見つめていた。
じゃあ、人間はどうなんだろう(イ・デ・ロス・オンブレス)? とジョン・グレイディがきいた。
老人は答え方を捜して口を色々な形にした。しばらくたってようやく彼は人間同士のあいだには馬のような魂のつながりはなく人間は理解できるものだという考え方はたぶん幻想だろうといった。ロリンズが下手なスペイン語で馬にも天国はあるのかと訊くと老人は首を振り振り馬には天国など必要ないと答えた。しばらくしてョン・グレイディがもし地上から馬が一頭もいなくなったらもう新しい生命を補充できなくなるから馬の魂も滅びるのかと尋ねると、老人はただ地上に馬が一頭もいなくなるなどということは神様がお許しにならないからそれについて何かをいうのは無意味だと答えただけだった。




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